セーターの備忘録

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いわて銀河フェスタでEHTや天体観測におけるデータの前々処理について聞いてきました

いわて銀河フェスタについて

8月24日 (土) ,国立天文台水沢キャンパスでいわて銀河フェスタ2019いわて銀河フェスタ2019が行われました.このイベントでは国立天文台の特別開放が行われ,今年話題になったブラックホールに関する研究 (EHT: Event Horizon Telescope) に携わった研究者方の講演会や座談会なども行われました.
イベントでは,天文学に携わる世界屈指の研究者の方々のお話を伺ったり交流したりできる一方,場所が水沢という田舎の地な上に広報が上手くされていないため,悠々と気が済むまでお話をさせていただくことができました.
この記事では,そこで見たものや聞いてきた話についてまとめます.

見たもの・聞いたもの

ILCについて

会場に着いてまず,国際リニアコライダー (ILC: International Linear Collider) *1の広報ブースを訪ねました.ILCは素粒子物理学の研究で必要となる次世代の直線型衝突加速器で,岩手~宮城に跨る北上山地の地下へ建設することを目指して誘致活動が行われています.
現在は学術会議や研究者,政府で様々な意見が出ており*2*3,建設計画が進むか予断が許さない状況です.
伺った話によると,2020年にマスタープランが策定されるまで主に3つの意思決定の場があり,それぞれの場でどのような判断がされるかについて注視しているとのことでした.
自分が所属している大学でもILCの建設を見越したプロジェクトや研究の話はいくつも聞いたことがあり,今後どのように進んでいくのか注目しています.

スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」

国立天文台水沢キャンパスには,天文学研究用スーパーコンピュータの「アテルイⅡ」が置かれています.昨年までは「アテルイ」が稼働していましたが,今は一新され「アテルイⅡ」が稼働しています.
今回のイベントでも公開されていたのですが,前述したILCのブースで話をしている間にスパコン室に入るための整理券が無くなってしまい,入ることができませんでした……
ただ,整理券が取れなかった人向けに外からチラ見せをさせてもらいました.

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天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」

相関器室でデータの前々処理について学ぶ

相関器室では,VERAプロジェクトにおける観測データの処理についてお話を伺うことができました.

VERAについて

VERAはVLBIと呼ばれる手法によって天体の距離や運動を高精度で記録するプロジェクトです*4.高精度に観測を行うため,水沢(岩手)・入来(鹿児島)・石垣島・小笠原の4ヶ所の観測局を組み合わせて観測を行うことで,直径2,300kmの望遠鏡と同程度の性能を発揮しています.
近年は韓国や東アジアにある観測局を組み合わせることで,さらに精度を上げようとしたりもしているそうです.

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観測で使われる20mアンテナ.手前の線は北緯39°8'を示している.

取り込むデータと利用までのプロセス

20mアンテナを使うことで,様々な電波を受信することができます.しかし,raw dataをそのまま使うことは難しく,大抵の場合は他の観測局で取得できたデータと合わせて処理を行った上で,ユーザや研究者にデータが渡されます.これら相関処理と呼ばれる前々処理を行っているのが相関器室だそうです.
先日話題になったブラックホールの発見に関する研究でも,取得したraw dataに対して相関処理を行った上で,データをスパースモデリングによってイメージング処理を行っているとのことでした.

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取得したデータが研究者に届くまで

相関器室での質問と回答

相関器室では研究員の方が案内をしてくださり,また建物の奥の方の部屋のためか人も少なかったため,多くの質問をさせていただくことができました.

Q: 取得したraw dataをそのまま使うことはないのか
A: 相関処理は共通して行う前々処理なので,基本的にはない.ただ,プロジェクトによってはそのままのデータを渡すこともある.

Q: ブラックホールの研究も同じことをしているのか.
A: そう.ブラックホールの研究も相関処理を行ったうえでイメージング作業を行っている.

Q: 最近は人工衛星が天体観測に悪影響を与えているというニュースもあるが*5,実際どのような影響があるのか.
A: 今行っているプロジェクトでは,取得する電波と人工衛星が発している電波の周波数帯が異なるため影響はあまりない.ただ,プロジェクトによっては周波数帯が重なってしまう場合もあり,一回でも人工衛星の電波を取得してしまうと電波強度が強すぎるためノイズとして処理することは難しく,データを捨てるしかなくなる.

Q: 機械学習やAIと呼ばれるような技術は使われているか.もしくは使われる余地はあるのか.
A: 今のところ機械学習は取り入れていない.しかし,運用における異常検知や,一定間隔で観測している天体の移動における異常差をDeep Learningなどで自動検知できれば,手作業で行っている部分が自動化できて良いと思う.

EHT研究者の講演と座談会

ブラックホール発見の研究プロジェクトに携わった研究者の方々の講演会と座談会も行われ,プロジェクト中の裏話などを聞くことができました.
小さい子供や高齢者の方も多かったので,質疑応答の時も緩い質問が多いのかなと思っていましたが,「2年前にアメリカで発表されたブラックホール重力波発見と比べて今回の研究成果はどのような違いや意義があるのか」というような非常にレベルの高い質問も出てきて興味深かったです.
また,子供からの「ブラックホールに行ってみたいか」という質問に対して,本間先生が「寿命が分かっててもうすぐ死ぬというタイミングだったら,ブラックホール葬じゃないけど行ってみたい笑」と答えていたことが面白かったです.

終わりに

天文学は自分の専攻ではありませんが,間接的に関連している話や技術も多く,非常に興味深かったです.また,非常にレベルの高い研究者の方々とこれほど気楽に話すことのできるイベントはないと思うので,貴重な経験をすることがきました.